Fit to Standard – 「SAP S/4HANA」は標準機能でビジネスを回すERPに

12月14日、SAPジャパンによる「SAP S/4HANA Cloud」の最新情報に関するプレス向けセミナーが行われました。別記事でも触れたように、SAPは現在、「SAP Intelligent Enterprise(以下、インテリジェントエンタープライズ)」というコンセプトのもと、クラウドファーストなアプローチで、かつ、アドオンを作り込むようなカスタマイズではなく、API連携を基本としたアプリケーション統合を実現しようとしています。そしてその方針は、長いことSAPの代名詞でもあったERPビジネスにおいても同様であり、現在のエンタープライズ向け主力ERPである「SAP S/4HANA Cloud」はまさにインテリジェントエンタープライズを象徴する製品です。

SAP S/4HANA Cloudは現在、四半期ごと、3カ月に1回の頻度で機能アップデートが行われており、最新のバージョンは2018年11月に提供された「SAP S/4HANA 1811」(トップ画像)になります。かなり頻繁なアップデートに見えますが、「オンプレミス主流の時代のように3、4年に一度の機能拡張では技術革新のスピードについていけない」(SAPジャパン SAP S/4HANA Cloud事業本部長 関原弘隆氏)として、エンタープライズの世界でも進むデジタライゼーションに対応していくためにスピーディな進化を遂げていく姿勢を崩していません。

しかし、S4/HANAの進化のスピードを妨げる大きな存在に過去のERP資産にひもづいた”アドオン”が挙げられます。S/4HANAがいかに急速にその機能を拡張していっても、アドオンはそれと同じスピードで進化することはできません。このためSAPは現在、S/4HANA Cloudに関しては基本的にマルチテナントにはアドオンを持ち込ませず、アドオンを要望するユーザに対してはシングルテナントでの利用を推奨しています。3カ月に1回という一見、速すぎるように思えるサイクルも、アドオンに頼らない「SAPが用意するERPの標準機能で顧客のビジネスを回す」(関原氏)ためには当然ともいえるペースだといえます。

ここ1年のSAP S/4HANA Cloudの進化。最新版の1811はインテリジェントERPとして大きく成長した。2018年中には38カ国23言語をサポート予定

もっともS/4HANAが登場した2015年から2017年にかけてはまだS/4HANA自体が未熟な製品だったこともあり、アドオンによるERPのカスタマイズを繰り返してきた日本のエンタープライズ企業にとって、標準機能だけでビジネスを回すという考え方はなかなかに受け入れがたいかもしれません。関原氏も「2017年までは(ERPとして)あって当然の機能がなかったのは確か」としていますが、最新バージョンの1811では購買発注の見越し/繰延、調達パフォーマンス予測、未請求一括リリース、インテリジェントリソース管理、資産管理における実際原価管理、2-Tier ERPなど、インテリジェントERPにふさわしい機能を数多く実装しています。「S/4HANAは最新の状態が標準であることをめざしている。ERPを作り込むのではなく、使ってもらえる存在にするために、アップデートを続けていく。日本企業でもこのS/4HANA Cloudを採用する企業が増えてきた」(関原氏)

日本企業のデジタライゼーションを阻んでいる大きな要因のひとつに標準化に対する意識の低さが挙げられます。とくにERPのような基幹システムに対する過度なカスタマイズは、外環境の劇的な変化にキャッチアップすることが難しくなり、国際的な競争力の低下へとつながります。SAPは以前からERPに関しては”Fit to Standard” – 標準への準拠を強く提唱しており、これはSAP Cloudのプレジデント兼CTOであるビョルン・ゲルケ(Bjorn Goerke)がバルセロナのカンファレンスで何度も強調していた「Keep the core clean!」と同じ思想です。標準機能でビジネスを回す、個々に必要な機能はAPI連携でカバーする – アドオンとカスタマイズという長くて太い鎖から日本企業を解放するトリガーとなることがS/4HANA Cloudには求められます。

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