AWSクラウドはライフサイクル無限のハードウェア – AGCが5年間のクラウドジャーニーで手に入れたもの

日本企業はデジタルトランスフォーメーションへの取り組みが遅れているとはよくいわれますが、筆者が見る限り、AWSクラウドの利活用、とりわけエンタープライズ企業におけるインフラのリフト&シフトの導入事例の数々は、グローバルにあっても決して見劣りしないどころか、世界最先端のユースケースである場合も少なくありません。そうした事例のひとつがAGCによるSAP基盤の全面AWS移行です。約5年間に渡る”クラウドジャーニー”はAGCに何をもたらしたのか – 12月19日、東京・目黒のAWSジャパン社内において、AGCの情報システム部門の方々にお話を伺うラウンドテーブルが開催されました。

今年の7月1日に社名を旭硝子からAGCへと変更し、「ガラスだけではなく、さまざまな素材を総合的に提供する”Advanced Glass Chemicals and Ceramics”として社会に貢献していきたい」(AGC グローバルITリーダー 情報システム部長 伊藤肇氏)と新たなスタートを切ったAGCですが、同社の基幹システムとして運用されてきたSAP基盤もこの11月にすべてAWS上へと移行が完了し、ブランド刷新に華を添えています。2018年12月時点ですでに142のSAPシステムがAWS上で動いているとのこと、これはAWSグローバルの公式ユースケースの中でもかなり大規模なSAP移行事例として紹介されています。

AGCが最初にAWSクラウドへの移行を検討したのは2014年2月でした。その半年後の2014年8月には導入を決定し、以降、ハードウェアの更新時期などにあわせ、段階的にリフト&シフトを繰り返し、現在の完全移行に至っています。

AWSへのインフラ移行で得られた成果として、AGC 情報システム部 電子・基盤技術グループ マネージャ 大木浩司氏は大きく4つのポイントを挙げています。

  • 企業の基幹システム利用として先進事例を作ることができた
  • 想定以上にコストが安くなった
  • 自前でディザスタリカバリの投資をすることなく、BCPを強化できた
  • 情報システムのカバレッジと文化が変化した

とくにコスト、そしてディザスタリカバリを含むセキュリティやBCPの改善は想像以上だったと大木氏は振り返っています。「検討を開始してすぐにAWSが大幅な値下げを行った。最新の技術がどんどん安く使えるようになるなんて、これまでのオンプレミスの運用では考えられなかったこと。また、AWSにリプレースすることで、我々がハードウェアにこだわる必要はなくなり、バージョンアップ地獄から解放された。1000年に一度の危機に備えて自前でディザスタリカバリのためのデータセンターをもつべきかどうか、つねに悩みどころだったが、AWSにより自前のデータセンターをもつ必要はなくなり、コスト削減もBCPも大幅に強化されることになった」(大木氏)

現在、AGCでは「Alchemy」というVPCとして構築したIaaS基盤でAmazon EC2やAmazon EBS、AWS IAMなど7つのインフラサービスを稼働し、その上でSAPを運用しています。伊藤氏はこれを「ライフサイクル無限のハードウェアを手に入れたようなもの」と表現していましたが、それは落ちないシステムを手に入れたという意味ではなく、「たとえシステムが落ちたとしても、すぐに再稼働できる可用性を手に入れた」(AGC 情報システム部 デジタルイノベーショングループ プロフェッショナル 三堀眞美氏)ということです。今後はこの”ライフサイクル無限の基盤”から始まったエクスペリエンスを拡張させ、IoTやサーバレスなどを含めた新たなクラウドのステージへと歩を進めるAGC。創業100年を超える日本企業がグローバルで率先して作り上げた、エンタープライズにおけるクラウドジャーニーのお手本ともいえる事例です。