SAP Intelligent Enterprise – エンタープライズITにカスタマイズではなくインテグレーションを

本記事は「SAP Advent Calendar 2018」の9日目の記事としても投稿しています。
SAP Advent Calendar 2018

10月23日 – 25日の3日間に渡ってスペイン・バルセロナで開催されたSAPのテクノロジカンファレンス「SAP TechEd Barcelona 2018」では、SAPがここ数年、顧客に対して提唱してきた「SAP Intelligent Enterprise」が、技術的にも概念的にもひとつの大きな節目を迎えたような印象を覚えました。インテリジェントエンタープライズの中核となる技術ポートフォリオ「SAP Leonardo」もラインナップが揃い、また、外部サービスとの連携を実現するコネクタ「SAP Cloud Platform Open Connectors」、コンテナベースのサーバレスアーキテクチャ「SAP Cloud Platform Functions」を新たに発表するなど、SAPだけの世界に閉じることなく、オープンで統合された世界を指向していくというSAPの方向性がより鮮明に打ち出されたといえます。なお、SAP Cloudのプレジデント兼CTOであるビョルン・ゲルケ(Bjorn Goerke)によるインテリジェントエンタープライズを紹介したキーノートのもようは、本サイトでも簡単にレポートしています。

しかし、この「SAP Intelligent Enterprise」という単語の羅列は、とくに日本のユーザにとってはやや抽象的に聞こえすぎて、何を意味しているのかがわからないという声も少なくないように思えます。そこで本稿ではバルセロナでの取材をもとに、インテリジェントエンタープライズとは何なのか、その基本的なコンセプトをあらためてひも解いてみたいと思います。

 

🐾インテリジェントとはインテグレーション!?

すでにご存知の方も多いと思いますが、重要なポイントなのであらためて強調しておくと「SAP Intelligent Enterprise」とはSAPが販売する固有の製品名ではありません。SAP Intelligent Enterpriseとは、同社の技術や製品を中心に構成される次世代エンタープライズITのコンセプトであり、そのコアには”インテグレーション(integration)”があります。ビョルンもバルセロナのキーノートにおいて「インテグレーションはインテリジェントエンタープライズのキーである(Integration is a key for the Intelligent Enterprise)」と明言していましたが、SAPに限らず、これまでサイロになりがちだった企業システムを有機的に統合、連携し、拡張していく – これがインテリジェントエンタープライズの考え方のベースです。なお、インテリジェントエンタープライズは基本的にクラウドファーストですが、オンプレミスの統合ももちろん含まれています。

この”つなげて、ひろげる”というインテグレーションの考え方を念頭に置いて、SAP Intelligent Enterpriseのアーキテクチャを見てみましょう。SAP Intelligent Enterpriseは大きく3つのパートから構成されています。

  • インテリジェントスイート … ERP、CRM、HCM、デジタルサプライチェーンなどクラウドベースのアプリケーション
  • インテリジェントテクノロジ … 「SAP Leonardo」に含まれるIoTやマシンラーニング、アナリティクスなどデジタルトランスフォーメーションに欠かせないテクノロジ
  • デジタルプラットフォーム … クラウドプラットフォームとデータ基盤

当然ながらSAPはこれらをカバーする豊富な製品ポートフォリオを揃えています。しかしインテリジェントエンタープライズを実現するために重要なのは、単にSAP製品を買い足していくことではなく、SAP製品とNon-SAPを含む既存の資産、そしてこれから作るアプリケーションを、デジタル時代にふさわしいかたちでインテグレートしていくことです。そしてSAPもまた、顧客に対してインテグレーションを前提とした提案をすることが求められます。

なお、インテリジェントエンタープライズの詳細についてはSAPジャパンのサイトにも解説が掲載されているので、そちらも参照してください。

 

🐾Keep the core clean! – インテグレートの4原則

インテリジェントエンタープライズの根幹となるインテグレート/インテグレーションですが、SAPはインテグレーションにあたって、以下の4つの原則を掲げています。

  1. Out-of-the-Box
  2. オープン
  3. ホリスティック
  4. AIドリブン

Out-of-the-Boxは文字通り”箱から出してすぐに使える、すぐにインテグレートできることを意味しています。インテリジェントスイートに含まれるSAPアプリケーション群はすべてOut-of-the-Boxの思想のもとで作られており、過度なカスタマイズを必要としません。つまり、標準的な技術で構成されており、使いやすいインタフェースで、かつセットアップが容易で、マスターデータをほかのアプリケーションと共有できるようになっています。

2つめの”オープン”はAPI指向をベースにしています。モダンなアプリケーションを構築するには豊富なAPIが使えることがいまでは必須条件ですが、SAPはパートナーのAPIも含む「SAP API Business Hub」を提供しており、テストを容易にするAPIサンドボックスや、コードジェネレータなどのIDE、あらかじめパッケージングされたアクセラレータなども含まれています。また、バルセロナで発表された「SAP Cloud Platform Open Connectors」は、FacebookやTwitter、Slackなど150以上のサードパーティとのインテグレートをRESTful API連携により可能にしています。

3つめの”ホリスティック”は、オンプレミスとクラウド、SAPとNon-SAPをまたがったハイブリッドな連携を可能にし、あらゆるデータソースのデータを集約できることを意味しています。iPaaSの「SAP Cloud Platform Integration Suite」、データ基盤の「SAP HANA Data Management Suite」などはホリスティックなデジタルプラットフォームを実現するソリューションの代表です。

最後の”AIドリブン”は、マシンラーニングによるインテグレーションの自動化を推進する考え方で、インテリジェントエンタープライズの中でも比較的新しい取り組みです。ソリューションとしては、SAP Cloud Platform Integrationの機能として「Integration Content Advisor」が用意されており、マシンラーニングとその集合知によるアプリケーション統合をサポートしています。ただ、日本ではまだほとんど紹介されておらず、ソリューションとしても未熟なところが多いため、今後のアップデートに期待したいところです。

SAP Intelligent Enterpriseの基本アーキテクチャ(左)と、インテグレーションにおける4つの原則

バルセロナのキーノートでビョルンはインテグレートを実施するうえで重要なポイントとして「Keep the core clean!」と強く訴えていました。コアをクリーンにしておくとは、たとえばSAP S/4HANAなどのコアアプリケーションに手を入れるようなカスタマイズはしない、カスタマイズはあくまでAPIベースで行い、アプリケーションのコアにユーザが手を入れるべきではない、という考えです。古くからのSAPユーザには「SAP ERPはアドオンでカスタマイズして使うもの」と認識している企業が多く、とくに日本のユーザはこの傾向が非常に強いのですが、そうした標準化の流れとかけ離れたアドオン指向は21世紀のインテリジェントエンタープライズにはふさわしくないといえます。ユーザはインテグレートによって好きなシステムを好きなように連携して使えばいい、そのための技術と手段はSAPが提供する、ただしコアはクリーンなままで – インテグレートの4つの原則は”Keep the core clean!”を下敷きにしていると考えるとよりわかりやすいのではないでしょうか。

インテリジェントエンタープライズはSAPから与えられるものではなく、SAPのテクノロジを使いながらユーザみずからが作り上げていくものです。そして、一度構築したら完成ではなく、つねにアップデートしていく必要が生じます。SAP製品に限らず、企業システムをいかにしてインテグレートし、成長させていくのか – デジタルトランスフォーメーションの重要性が叫ばれる中、その基盤となるシステムを統括するCIOやCDOにとって、インテグレーションは今後、より重要なテーマとして映るはずです。