日本の低生産性を地方から変えていく – 中小製造企業向けの共通業務プラットフォーム「CMEs」が会津地域でローンチ

会津産業ネットワークフォーラム(ANF)、アクセンチュア、SAPジャパンは4月9日、共同で構築した中小製造企業向け共通業務プラットフォーム「コネクテッドマニュファクチュアリングエンタープライゼス(CME)」の提供開始を発表しました。当面はANFの会員となっている福島県会津地域の中小製造企業を対象に導入が進められ、順次全国の中小製造企業に拡大していく予定です。

CMEsは、2011年から会津若松市および会津大学と連携してスマートシティ計画を策定/推進してきたアクセンチュアが主導するプロジェクトで、日本が抱えるさまざまなナショナルアジェンダ(国家的課題)のなかでもとくに深刻な生産性の低さの解決に焦点を当てています。

「2018年の日本の時間あたり労働生産性はOECD加盟36カ国中21位、最新の調査ではさらに後退して24位以下と言われている。主要先進7カ国に限れば、1970年以降最下位の状態が続いており、日本の生産性が上位諸外国の水準に近づいたことは一度もない。このような状況で”ウエルビーイング”などを語っても意味がない」(アクセンチュア イノベーションセンター福島 センター共同統括 マネジングディレクター 中村彰二朗氏)

2018年の調査によれば1万ドルを稼ぐために必要な社員数と労働時間の国別比較で日本は29人/7時間、米国の19人/7時間、ドイツの25人/6時間とかなり差をつけられている

さらに低生産性の問題は都会よりも地方のほうがより深刻化しています。その原因について中村氏は「個社分散と投資武装によるIT化の遅れ」にあると指摘します。地方の中小企業には大規模なITシステムを1社で導入することは技術的にもコスト的にも難しく、また、安価な既製品を導入しても局所改善にしか効果がないことがほとんどです。

そうした現状を踏まえ、本プロジェクトでは地方の中小企業のIT基盤に必要な要素として

  • 高品質で低コスト
  • 調達/受注/会計など非競争領域を標準化/共通化し、中小企業が相乗り型で利用できる

というポイントにフォーカスし、中小製造企業が本来注力すべきイノベーション分野(競争領域: センサー/ロボット/デジタルファクトリなど)での生産活動を支援することを掲げて開発が続けられてきました。CMEsは全部で4つのステージに分けて段階的にリリースされることになっており、今回発表されたのはその第1弾、「非競争領域のIT基盤導入」となります。コアとなる基幹業務システムには「SAP S/4HANA」を採用、参加企業がSaaS/サブスクリプションベースで利用できるように構築されており、「約25%の生産性向上が実現可能」と中村氏は強調しています。第2ステージ以降に拡張されるシステム(製造工程におけるデジタル化、IoTによる工場のオートメーション化、企業間連携の促進とイノベーションの創出)に関しても「極力、カスタマイズは避け、パッケージやテンプレートを積極的に活用していく方針」(中村氏)としており、日本企業が苦手としてきた非競争分野の標準化/共通化を徹底していく方針のようです。

今回のリリースは4つの段階のうちの最初のステージにあたる共通IT基盤の導入。ANFに参加する複数の企業がサブスク形式で会計など非競争分野のシステムを利用を開始する

地方の中小企業、それもものづくりの職人たちを数多く抱える製造業で、業務システムの標準化をクラウド/サブスクベースで進めるという、マインドセットの大きな転換をともなう改革を実行するには、当然ながら地元の強力な後押しが必要です。今回のプロジェクトにはANFのリーダー経営者、会津大学、会津若松のITベンダなどが一体となって推進、さらに会津若松市や経済産業省なども協力/支援する産官学連携を実現しています。

「中小企業の生産性を上げるということは、最終的には従業員の可処分所得を上げることに尽きる。そのことを念頭に置きながら、ERP(CMEs)の共同導入による標準化を進めていきたい」(ANF参加企業のマツモトプレシジョン 代表取締役社長 松本敏忠氏)

3年の開発期間を経て、ようやく最初のローンチを会津地域で迎えた中小製造企業向けプラットフォームのCEMs。このプラットフォームが会津地域を超え、さらに製造業という枠組みを超えて、全国の中小企業に生産性向上をもたらし、ひいては日本企業のイノベーションを支える基盤となるにはまだ時間がかかりそうですが、まずは「非競争分野の標準化/共通化」というDXのプリンシプルを1社でも多くの中小企業に伝えていく存在として期待したいところです。

トップ画像は報道関係者向け説明会(オンライン)でのパネルディスカッションのもようです。左からアクセンチュア 中村氏、会津産業ネットワークフォーラム  代表 阿部進氏、マツモトプレシジョン 松本氏、公立大学法人会津大学 理事 岩瀬次郎氏。「地方の中小企業経営者に標準化/共通化の重要性を伝えていくのはかなり大変なのでは?」という質問に中村氏は「経営者のマインドセットを変えてもらうのはたしかに大変で継続した努力が必要だが、アクセンチュアが無理やり押し付けるよりも、阿部氏や松本氏、または地元のSIerなど地元の方々に伝道師になってもらって進めたほうが良いと感じている」と回答していました。経営者のマインドセットの変化はCEMs普及の重要なポイントになりそうです。

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