2020年最初のメディア掲載記事として、スペイン・バルセロナにある世界遺産「サグラダファミリア(Sagrada Familia)」の工期を大幅に短縮させたテクノロジと、それを指揮したIT統括責任者のフェルナンド・ヴィラ(Fernando Villa)氏のリーダーシップについて書きました。当初、300年と言われていた工期を約半分に短縮し、2026年の完成予定を着々と現実化するのに大きく貢献したテクノロジ、とくにエッジコンピューティングに焦点を当てています。
この記事は昨年10月、バルセロナで開催されたたSchneider Electric主催のプライベートカンファレンス「Innovation Summit Barcelona」で行われたエッジコンピューティングのセッションの取材にもとづいています。冒頭でも書きましたが、現在のエッジコンピューティングは単なるオンプレへの回帰ではなく、低レイテンシを求めるユーザサイドの要求に応えるため、クラウドと連携しながらも現場(エッジ)で行える処理は現場で行うという考え方が主流です。モデリングはクラウドで、推論はエッジ行ういわゆる「エッジAI」はまさにその代表だといえます。
そうした意味でいうと、2015年の導入事例であるサグラダファミリアのこのケースは、クラウド連携についてはほとんど触れていないため、2020年の”エッジコンピューティング”の定義からは若干外れているかもしれません。サグラダファミリアが導入したSchneider Electricのモジュラー型データセンターは、現在は「EcoStruxure」と呼ばれているクラウド連携も可能なエッジコンピューティングのラインナップに属する製品ですが、当時はEcoStruxureシリーズはまだ登場しておらず、クラウド連携に関してはそれほど重視されていませんでした。
ただし、エッジコンピューティングにおいてもっとも重要なコンセプトは先にも挙げたように低レイテンシであることは当時も現在も変わりません。サグラダファミリアの場合、観光客をチケット購入で待たせない、ビデオカメラによる不審者やトラブルをリアルタイムで監視するといった巨大観光地ならではのニーズから、低レイテンシは欠かせない要件でした。現在ではモジュラー型データセンターに集約したデータをAI(IBM Watson)で分析するなど、ビッグデータ活用を積極的に進めているとのことだったので、EcoStruxureを起点にしたクラウド連携も行っていると思われますが、エッジコンピューティングという言葉が誕生する前からニアリアルタイムを重要視していたおかげで、その後のITトレンドの変化にも十分にキャッチアップできた事例だともいえます。この「トレンドを見誤らない」というスキルは、今日のITチームのリーダーにとって非常に重要な資質です。
サグラダファミリアは年間、500万人近い観光客が世界中から訪れており、日本の観光客にも人気の世界遺産です。もし、バルセロナでこの教会を近くに見る機会があるのなら、アントニオ・ガウディの設計思想を150年かけて現代によみがえらせようとしている人々と、それを支える数々の最先端テクノロジに思いを馳せてみるのも悪くないような気がします。
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