5月11日 – 12日の2日間に渡り、オンラインで開催される「AWS Summit Tokyo 2021」。Day 1(5/11)の午前中に行われた基調講演には例年通り、AWSジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏が登壇し、コロナ禍にある日本社会がクラウドによってどう変革を遂げつつあるかが豊富なデータと事例でもって語られました。本稿では基調講演の前半、長崎社長とゲストのDeNA 代表取締役会長 南場智子氏によるプレゼンの概要を時系列に沿ってざっくりと紹介します。
・長崎社長登壇。今年で10回目となるAWS Summit Tokyo、ここまで大きくなれたのは顧客とパートナーのおかげであらためてお礼。この10年、日本企業のクラウド導入と移行を支援してきたが、まだ進化の途中にある。この2日間のサミットは学びの場として、150以上のセッションを用意してある。楽しみながら学んでほしい。
・AWSの直近のビジネスアップデート。2020年度の年間売上は454億ドル(約5兆円)、2021年度第1四半期の成長率は前年同期比32.1%(ちなみに売上高は135億ドル)、Gartnerのマジッククアドラントでは10年連続でクラウドリーダーのポジション。
・現時点のグローバルクラウドインフラストラクチャ。80のアベイラビリティゾーン(AZ)、25のリージョン、46カ国89都市に拡がる230以上のPOP、13都市に拡がるAWS Wavelength Zoneを展開。ちなみにAWSの”リージョン”は物理的なデータセンターが集積した複数のAZから構成されている。1つしかないデータセンターを”リージョン”と呼ぶほかのクラウドプロバイダとは根本的に違う。AWSのAZ間は完全に冗長化され、低いレイテンシと高いスループットを実現する。なお、日本には東京と大阪にリージョンがあり、Wavelength Zoneも東京と大阪で展開している。1つの国で2つ以上のリージョン/Wavelength Zoneを展開するのはアメリカのほかに日本だけ。
・10年間、イノベーションも継続中。2020年に追加された新機能の数は2757。サービス開始当初から顧客が求めることを先読みして機能追加を行ってきた。今後もペースを落とすことなく新機能を追加していく。なお、現在AWSが展開するサービスの数は200を超えている。
・日本におけるAWSの現状。国内に数十万の顧客、数百のパートナー、ユーザコミュニティの参加者は5万人超。あらゆる業種、あらゆる公共機関で拡がっていると実感する。クラウドが社会に密着した証。
・2020年から2021年にかけては急激で非連続な変化が起こっている。これほど大きな変化が起こることはそうはない。テクノロジの導入に関してもいままでは3年から5年かけることはあたりまえだったが、いまは1年以内でやらなければならない事態に。
・そうした急激な変化に対応できるのがクラウドの強み。ここで札幌市の事例。新型コロナウイルスの対策現場は大混乱で、保健所の管理業務支援システムのアップデートが必要に。SWATチームを立ち上げ、これまでExcelで管理していたPCR検査の受付、検査結果、陽性確定者、入院状況、etc.といった情報を統合して管理するシステムをAWSパートナーが1週間で構築。オンプレも検討したが、時間がかかりすぎで論外。センシティブなデータの集約もAWSクラウドならセキュアに実現し、濃厚接触者のトラッキングなどこれまで手作業でやっていたことも自動化され職員の負荷が大幅に軽減、生産性が爆上がり。利用者が急増してもスケーラビリティにより安定稼働、コロナが収束すればシステムをいつでも停止可能、クラウドの価値を実感する事例に。
・平井卓也デジタル担当大臣のビデオメッセージ。いまは100年に一度のパンデミック。コロナにより世の中は大きく変わったが、変化のスピードが上がったのも事実。日本のデジタル化はこれまで遅れてきたが、9月のデジタル庁立ち上げを目指し、一気に取り戻していきたい。これからさまざまなイノベーションが起こるだろうが、それらはすべてクラウドベースであることは間違いない。省庁の改善も”クラウドbyデフォルト”で、地方自治体もガバメントクラウドで進めていく。発想やものごとの進め方も大きく変わっていくだろう。それが意味のあることだと思っている。コロナとの戦いはまだ続くが、デジタルの力で問題を解決し、より人に優しく、便利で、分散していても使える基盤を望みたい。
・長崎社長に戻ってイノベーションについて。イノベーションを起こすのは本当に難しいが、AWSは「顧客のニーズから逆算する」を掲げている。トライ&エラーで失敗のコストを下げ、成功の確率を上げていくにはリーダーシップが重要。ここでイノベーション(発明)に必要なリーダーシップの8か条を紹介。
- 発明し続けるリーダーの意志
- 時代の流れには逆らえないという認識
- 発明に対する強い意欲をもった人材
- 顧客の新の課題を解決するという観点
- まずは始めてみること
- 関係者を少なくシンプルに
- 多くの機能と豊富なツールセットを兼ね備えたプラットフォーム
- トップダウンによるアクティブな目標設定と推進
・トップダウンが奏効したケースとしてDeNAの南場智子会長がゲストとしてプレゼン、DeNAが2018年から3年かけてこの4月に終了したフルクラウド移行について紹介。300以上のサービス、1日あたり50億リクエスト、ペタバイト級のデータ、3000台以上の物理サーバといった環境をAWSクラウドにすべて移行するという”マッシブ”な事例。移行のポイントはQCD、とくにCのコスト。DeNAのオンプレサーバは技術者がカリカリにチューニングしているのでコストがクラウドよりも安く上がっている。しかしそれでもクラウドに移すと決めたのはインフラエンジニアを創造的な仕事にフォーカスさせたかったから。優秀なエンジニアにサーバの購入や相見積、ラッキングなどの作業をさせたくなかった。
・クラウド全面移行におけるイシュー(課題)は2つ、コストと人材。AWSのコストを半分に下げることができてはじめてオンプレミスと同等だが、これが証明できてなかった。本番作業に入ってから「できませんでした」ではすまされない。なのですでにクラウドに移行済みのサービスのコストを50%にできるかを証明することにした。試したのはスポットインスタンスの徹底活用(ステートレスサーバのコストを60%削減)、DeNA独自のオートスケーリング技術(全体の60%に適用、APIサーバコスト30%削減)、分割したサービスを再統合するシャーディングの調整(75%台数削減)。これによりコスト削減が可能なことが証明。
・人材のイシュー。今回の移行期間は3年、これはインターネットサービス事業者には非常に長い時間であり、さまざまなサービスを展開するDeNAにとって移行プロジェクトだけに人材を張り付けることは無理。移行にあたっては”ダイナミックな人材の活用を阻害しない”、つまりエンジニアの流動性を犠牲にしないことを掲げた。そのために実行したのが標準化の徹底。コスト管理、アカウント管理、権限管理(IAM)、システム、セキュリティ、ネットワーク、あらゆる作業の目的をすべて洗い出して標準化を徹底し、手を動かしてから迷わないようにした。3年間の移行期間のうち、1年3カ月を標準化に費やしたが、その甲斐あってダイナミックな人材の活用は阻まれずに、移行を実現することができた。
・エンジニアは全員、プロフェッショナルな仕事をしてくれた。心から感謝している。もっともこの3年の間に新しいサービスも立ち上がっているし、コストの問題も若干残っている。ただし今回の移行は「ずっとやり続ける」ものであり、不断の努力が必要なことである。
・AWSクラウドに移行後は、エンジニアが創造的な仕事にフォーカスできるようになった。ポチッとするだけでリソースがすべて調達できる世界はすばらしい。これまで新しく入社したエンジニアは、DeNAのオンプレの技術を半年かけて習得していたが、いまはDay 1で習得し、初日から活躍することができている。パブリッククラウドが新しい仕事のやり方を作り、そのおかげでエンジニアの市場価値も上がった。しかしそのせいでエンジニアに対するヘッドハンティングも増え、エンジニアの人事担当はサウナで泣いているらしい。しかし、エンジニアにいろいろな選択肢がある中で「ここ(DeNA)にいたいからいる」と言われるためにチャレンジングな開発の環境と良い組織風土を提供するのが我々経営陣の仕事である。クラウドはマネジメントの人間に対してもやるべきことに集中できるようにしてくれた。AWSクラウドへの全面移行は一点の曇りもなく大正解だったといえる。
・AWSクラウドはスタティックではなく、ダイナミックな世界。我々の要望をつねに受け付けてくれるのは大きな魅力。DeNAがローンチしたソーシャルライブ配信サービス「ポコチャ」はAmazon Interactive Video Service(IVS)を使っているが、採用にあたり我々の意見を多く取り入れてもらった。みなさんもどんどんAWSに要望を伝えてサービスの改善を図っていこう。
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