「どちらかといえば今回のプロジェクトは我々(経営企画)による中央集権的なプロジェクトで、現場任せにするつもりはない。しかし本来、こうした業務改革は現場の担当者がみずからの力でやろうという気にならなければ実現しない。プロジェクトが自走できるようになるまで、最初は業務効果の高いところから実施していく」 – 11月2日、あいおいニッセイ同和損害保険 代表取締役 副社長執行役員 黒田正実氏は、同社が11月から開始するプロジェクト「既存業務のデジタルシフト」についてこう語っています。本プロジェクトの2021年度までの具体的なゴールは、年間約1200トンにも上るコピー用紙などの紙の消費を削減し、約138万時間の余力を創出すること。そして特徴的なのは、現場からの声を拾って業務のデジタル化を進める”ボトムアップ型”ではなく、黒田氏らのプロジェクトチームが主導する”トップダウン型”であるという点です。
本プロジェクトは、あいおいニッセイ同和損保から20名、外部のコンサルタント50名による70名から構成されたチームにより推進されます。具体的には、RPAソフトウェア「UiPath」を導入し、UiPathと組み合わせるプラットフォームとして「Microsoft Dynamics 365」を採用、ワークフローのデジタル化を図っていくとのこと。Dynamics 365はCRMとしてよく知られたツールですが、今回のプロジェクトでは顧客ではなくロボットを管理する点がポイントです。さらに、コンサルとしてRPA導入支援で数多くの実績をもつアビームコンサルティング、Dynamics 365のテンプレート開発や支援機能開発に定評のあるCECもプロジェクトチームに参加しています。
今年に入って注目度が急激に高まっているRPAですが、その多くが既存の業務をロボットに代替する「現場型」「ボトムアップ型」といわれるものです。しかし黒田氏は「その程度(既存業務のRPAによる置き換え)ならかえってやらないほうがいい」と断言、大事なのは「社員に、いまの現場にはいらない仕事があるということを理解させ、自分の仕事を自分でデザインできるようにすること」(黒田氏)であり、だからこそ業務プロセスを抜本的に見直し、ワークフロー全体の自動化も一緒にやらなければ意味がないとしています。また、現場の声をひとつひとつ拾い上げるやり方では、業務改革そのものがサイロ化してしまう危険性があることから、本プロジェクトはとくに紙の使用量が圧倒的に多い経理部や人事部を重点部署として定め、それらの部署を対象にプロジェクトチームによるトップダウン型で進めていくという手法を取っています。
1200トンの紙の削減とそれによっても足らせる138万時間の余力で、どんなデジタルトランスフォーメーションが生まれるのか – 残念ながら現時点ではそこまでの青写真は見えていません。しかし黒田氏は「いまの時代、何もせずにこのままいたら、我々のような古いタイプの金融機関は立っていられない」と強烈な危機感をにじませています。正直、今回のプロジェクトを海外企業のデジタルトランスフォーメーションやFinTechと同一のレベルに並べるのはきびしいですが、コピー用紙中心のアナログ業務から脱却するという明確な姿勢をあいおいニッセイ同和損保のような旧タイプの大企業が見せたことは、日本企業のデジタライゼーションに何らかの影響があるのは確かだといえそうです。
トップ画像は、東京・品川の日本マイクロソフトで会見を行った黒田氏。これからはじめるデジタルシフトの難しさをよく理解していながらも、「取り組まないわけにはいかない」という強い決意を感じさせました。1年後にどんな成果が出ているのか、聞く機会があればと思います。
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