ソラコムが2月21日に発表したeSIMデータ通信サービス「SORACOM Mobile」についての記事を「クラウドwatch」に掲載いただきました。当日の会見は新型コロナウイルスの感染拡大にともない、急遽オンラインで行われました。
日本ではそもそもSIMフリーの携帯端末があまり普及しておらず、大手通信キャリアがeSIMの導入には積極的ではないという事情があるため、eSIMビジネスの活性化にはほど遠い状況なのですが、そうした中でこれまでB2Bをターゲットにしてきたソラコムが初のB2CビジネスとしてeSIMデータ通信サービスをローンチしたことは非常に興味深い動きだといえます。
「eSIMのような技術には、必ずしきい値を超えて潮目が変わる時期が訪れる。だが、そのときまで黙って見ているだけでは市場は広がらない。ソラコムはもともとスタートアップであり、イノベーターでもある。KDDIグループのイノベーション担当チームとしても、eSIMのような新しい技術には率先して関与し、潮目が変わったときにはよりよいサービスを提供できる体制を整えておきたい」
「イノベーターとしてeSIMビジネスには身を乗り出して参加するが、ビジネスそのものは丁寧に、慎重にアクセルを踏むやり方で展開する」
(ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏)
筆者はソラコムが最初のサービスである「SORACOM Air」をローンチする前から企業としてのソラコムの成長を見てきましたが、IoTスタートアップからKDDIグループの一員になった現在でも、新規事業に臨む姿勢にいっさいブレがないことにあらためて感心します。ソラコムは技術の会社なので、eSIMのような先進技術に対して貪欲であることは会社のアイデンティティそのものです。しかし、eSIMのようにポテンシャルは大きくとも技術的ンはまだ未熟で、ユーザも少ない技術をビジネスとして成長させるには、やみくもにGo-To-Marketをめざしてもうまくいきません。ソラコムの場合、2017年にLoRaWAN対応サービス「SORACOM Air for LoRaWAN」を開始したときもそうでしたが、まず徹底的にその技術の周辺調査を行い、Go-To-Marketの判断を下したらローンチまではパートナー探しも含めて迅速に、ただし最初の立ち上げはアーリーアダプタにターゲットを絞るなどして慎重に歩を進め、ローンチまでは情報が決して外に出ないように十分に管理しています。サービスとして提供可能な完成度までに達したら対外的にアナウンスを行いますが、その時点では先行事例やパートナーネットワークもある程度用意されている状態です。ローンチ後はひろく一般からフィードバックをあつめてアップデートを細かく重ね、玉川社長のいう”潮目が変わる時期”が来るころには、他社が真似しようとしてもできないレベルのエコシステムができ上がっているのです。
こうしたソラコムのアプローチは、玉川氏がソラコム創立前に在籍していたAWSのそれと非常によく似ており、2015年の「SORACOM Air」以来、一貫しています。数あるIoT技術の中からLoRaWANやeSIMといったポテンシャルの高いテクノロジを見極められる選択眼、そしてそれをビジネスとして成長させるためのアプローチ、そこにいっさいのブレがないことが、ソラコムの最大の優位性であるように思います。
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