11月17日、Google Cloudのダイアン・グリーン(Diane Greene) CEOは同社のブログにて、2019年1月をもってGoogle CloudのCEOを退任すると発表しました。後任にはOracleでクラウドビジネスを統括してきたトーマス・クリアン(Thomas Kurian)がシニアバイスプレジデントとして就任する予定です。なお、ダイアンはCEO退任後もAlphabetのボードメンバーにディレクターとして残る予定です。
突然の大物の交代劇にざわつくクラウド界隈ですが、ダイアンはブログで「2015年12月にGoogleにジョインしたときに、家族や友人には2年間だけ、と言っていた。気がついたら3年も経っていたけど」とコメントしており、決して急な決断ではなかった点を強調しています。Googleから離れたあとは、エンジニアリングやサイエンスの分野の女性ファウンダーを支援することを含めたメンター/教育事業に投資していく意向を示しています。
ダイアンに代わってGoogle Cloudを率いることになるトーマス・クリアンもエンタープライズIT業界の超ベテランであり、今年9月にOracleを退職してからの次のキャリアに注目が集まっていました。ダイアンは「トーマスは尊敬されているテクノロジストでありエグゼクティブ。彼はGoogle Cloudに11月26日からジョインし、2019年の早い時期にリーダーのロールを私から引き継ぐことになる。サンダー(Sundar Pichai、Google CEO)、ウルス(Urs Holzle、Googleフェロー)、そして私の全員でトーマスにインタビューした結果、彼ならGoogle Cloudを次のレベルに押し上げてくれる力になることを確信した」と次のGoogle Cloudのリーダーとしてのクリアンに高い期待を寄せています。
ダイアンがCEOに就いてからGoogle Cloudは大きく変わりました。現在、Google Cloudは1クォーターで10億ドル以上の収益を上げるユニットとなりましが、ここまで成長した要因として、エンタープライズ市場に弱かったGoogle CloudをAWS、Azureに続くトップ3のIaaSに押し上げたダイアンのリーダーシップを抜きに語ることはできません。単に大企業の顧客を獲得するだけでなく、Salesforce.comやCiscoといったベンダとのパートナーシップを積極的に拡張し、GCPやGoogle Apps/G SuiteをGoogle Cloudというひとつのブランドに統一するなど、エンタープライズビジネスを展開するのにふさわしいクラウドベンダへとGoogle Cloudを成長させた、その実力と功績は高く評価されるべきでしょう。
しかし一方でダイアンは、Googleという企業でエンタープライズビジネスを拡張していく難しさにも直面していたようです。今年3月、GoogleがAIツールをドローン画像解析用に国防総省に提供していた事実が判明すると、数千名のGoogle社員が猛反発し、中には退職してまで抗議を表明する騒ぎに発展しました。ダイアンは当初、「金額も小さな契約だし、このプロジェクト(Project Maven)は非軍事目的」と語っており、契約を続行する姿勢を見せていましたが、さらなる社員の反発を受けたことも重なり、結局Googleは6月には「国防総省との契約更新はしない」と表明しています。このほかにも、(Project Mavenとは別の)100億ドル規模の国防総省との契約を取れなかったことや、サウジアラビアの経営者カンファレンスに登壇して批判を受けたことなどもあわせ、ダイアンがGoogle Cloudのトップとして活動することに、ある種のやりにくさと限界を覚えていた面は否定できないように思えます。
ブログの最後でダイアンはこうメッセージを残しています。
The cloud space is early and there is an enormous opportunity ahead. I have loved working with everyone. I am especially grateful to all of our customers, partners, and employees for an amazing three years of getting to work with you.
(クラウドという世界はまだできたばかりで、そしてその前方には膨大なオポチュニティが拡がっている。私はここでみんなと働くことが大好きだった。我々の顧客、パートナー、そして従業員すべての人々に、このすばらしい3年間をあなたたちとともに過ごせたことを心から感謝したい)
–Diane Greene
クラウドビジネスの最前線からダイアンが離れてしまうことにすこし寂しさを覚えますが、次の彼女の進む道に、そしてOracleからGoogleへと活動の場をがらりと変えたトーマス・クリアンのリーダーシップに、引き続き注目していきたいと思います。
トップ画像は2017年9月のSalesforce.comの年次カンファレンス「Dreamforce 17」に、マーク・ベニオフの対談ゲストとして登壇したダイアンです。巨漢のベニオフと並ぶと、ダイアンの小柄さがいっそう目立っていたのですが、この小柄な女性が成し遂げてきたこと – VMwareを創立し、仮想化という技術をビジネスとして確立させ、そしてGoolgeでクラウドビジネスを大きなユニットに育て上げてきた、その功績の大きさにあらためて驚嘆します。
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