だめな英語でインタビューをする理由

※この記事は「書き手と編み手のAdvent Calendar 2019」12/20の参加記事です。

ここ数年、海外取材はもちろんのこと、日本で外国人のインタビューをする場合でも、通訳は通さずに英語で行うようにしている。こういうと「英語できるんですか、すごいですね!」と驚かれることが多いが、残念ながらすごいとかかっこいとか、そういうクールな表現とはまるで無縁で、いわゆる”Poor English”、かなり残念で幼稚な英語で挑んでいることを正直に言っておく。

え、なんでそんなひどい英語でインタビューなんてするの? みっともなくない? カッコ悪くない? 相手に失礼じゃない? 通訳がいないならともかく、通訳いるのにわざわざ下手な英語使う理由、なくなくない?

ごもっともな疑問である。

通常、日本人の記者が外国人にインタビューする場合、帰国子女や留学/駐在経験者などネイティブレベルで英語が使える人でなければ、ほぼ自動的に通訳がアテンドされる。おぼつかない発音とあやしい文法ととぼしい語彙力で外国人エグゼクティブと英語で渡り合おうとするレアな生物はほとんどいない。ではなぜ、そんな弱々しい英語力で取材を続けているのか。

答えは簡単だ。英語でインタビューしたほうが、より中身のある情報を相手から引き出せるからである。たとえ幼稚な英語であったとしても、通訳を通すよりもずっと内容が濃いインタビューを実現できるのだ。ひどい英語でみっともない姿を晒しても、インタビューという場ではより多くを相手に話させたほうが、仕事としては成功なのである。

おそらくインタビューをした経験がない人には意味がわからないかもしれない。だが”英語インタビュー”においてより大事な要素は、英語力ではなくインタビュースキルである。加えてエンタープライズITのような専門知識とトレンドに対する理解が重要な分野では、キーワードとなるテクノロジタームを並べていけば会話はそれなりに成立する。さらに外資系企業のエグゼクティブクラスは世界中の”Poor English”に慣れている。とくにヨーロッパのいろいろな国の人々が話す英語はじつにバラエティに富んでいて、国ごとの訛りも強い。したがって、ネイティブの英語話者がノンネイティブの英語を聞き取る努力をすることは、少なくともカンファレンスのような場では当然のマナーであり、その点ではたとえばRとLの区別がつきにくい”日本人英語”を恥じる必要はさほどない。

だが何より重要なのは、苦手な英語でのインタビューという制限を課すことでもたらされる取材の質の向上だ。英語が下手なインタビュアーと英語ネイティブ(あるいはネイティブ並)のインタビューイがひとつの場に対峙したとき、そこはかとない緊張感が生まれる。互いの間には「通常のコミュニケーションのようには通じない」という壁が最初から存在している。とくに取材される側のネイティブにとってみれば、頼りなげな英語と大仰な身振り手振りで何かを聞こうとしている小柄な東洋のインタビュアーは、「このインタビュアー大丈夫なのか?」と不安にさせるに十分であろう。その不安と緊張感が作り出した壁を、質問と回答という作業を何度も何度も繰り返しながら少しずつ一緒に壊していくと、不思議なことに取材が一気に核心に入っていく瞬間が訪れる。そのときのインタビューイの言葉のあふれっぷりといったらない。すこしは相手がノンネイティブということを思い出してほしい…というくらいによく喋る。自慢ではないが、「いままで考えたこともなかった新しい気づきを得られた」「自分の思いを整理できてよかった」 とこれまで何人もの取材対象者から言われてきたが、おそらく通訳がいた状態ではこうしたお褒めの言葉は得られなかったであろう。あえて緊張感のある状態を取材中に意図的に作り出す – 英語インタビューに限らず、良い取材、そしてその後の良い文章を生み出すために、短くない取材人生で身につけたこのスキルは、リスクがありそうでいて意外といろいろな場面で使えている。

余談でもうひとつスキルの話をしておく。このコラムではある仕掛けをしていて、じつは一人称の主語をいっさい使わずに書き上げている。自分語りのトピックなのに一人称の主語を使わずに文章を書く – これもひとつの制限である。制限というより、あえて”不足”を文章に埋め込む。そうすると、読み手はその不足分を補うように読んでいく。インタビューが取材する者と取材される者が生み出す作品であるように、文章もまた読み手と書き手による協奏である。読み手の仕事を取らないように、書き手はつねに何らかの制限をみずからの文章に課しておくといい…気がする。

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アイキャッチ画像は2018年12月上旬に米ラスベガスで行われた「AWS re:Invent 2019」でAWSのクラウドアーキテクチャストラテジ担当バイスプレジデント エイドリアン・コッククロフト(Adrian Cockcroft)への単独インタビュー中のもの。こうした場所でのインタビューは30分程度であるため、通訳を介さないほうが時間的にもより多くの質問ができる。

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